□かメ人間


斜陽が窓から差すというとまるで夕暮れの一刻を思い出すのが常かもしれないが、実際は暁光でも斜陽は容赦なく寝ている人々に降りかかる。そこには幾ばくかの光の明度の違いが表れるのだが、同じようにオレンジ色を浮かびあがらせる。だから我々は徹夜明けにぐっすり眠ってしまったあと、起きた時が夕方なのか、それとも朝なのか、度々間違えてしまう。


もしかしたら『かメ人間』が紡ぐ文章もそういうものなのかもしれない。あまりに日常的すぎる世界観は、まるでこれは自分の人生なのではないだろうか、と思わせるほどデジャブを起こさせる。ただ我々が経験している世界は恐らく暁光の世界であり、彼は夕闇の世界にひっそりと紛れ込んでいる。早く暗くならないかと闇が来るまでゆっくりと機会を伺っているのである。