メイク・メイド―5(四十七件)(23:59)

メイドはご主人様の過去に触れてはいけない。


これはアイアシ・ザックモフが作り出したメイド三原則の一つだ。


しかし、一度だけ、スミレは、私の過去を尋ねた。


「ご主人様は何故、ワタシをお作りになられたのですか」


私は、ぎくっ、とした。


無邪気な笑顔を私に向けるスミレをぎょっとした目で見ながら、私は固まってしまった。そんな私を前にしてスミレは首をかしげていた。


私はゆっくりと、それでいて威厳を持たせるように言った。


「スミレ、メイドはご主人様の過去にふれてはならない」


「申し訳ありませんでした、ご主人様」とスミレは慌てて言った。


「いや、いいんだ、いいんだよスミレ」と私は静かに応えた。


私は、昔、メイド工場で働いていた。


メイドをダンボールに詰めて、出荷する仕事だ。


ベルトコンベアからは毎日毎日メイドが流れており、作業も淡々としていた。単なるアルバイトである私の目の前を通り過ぎていくメイドたちは「おかえりなさいませご主人様」とスマイルを私に押し付けていく。私はそれに笑顔で対応し、素早くダンボールに詰めるのだ。


あまり規則に厳しい仕事ではなかったが、一つだけ絶対に守らなくてはいけない規則があった。もしそれを守らなかった場合、アルバイトをクビになるばかりか、賠償金を払わせられる可能性もある。それほど厳しいある種のルールだ。


それは、メイドに、恋をする、ことだ。

チェリー君(四十五件)(23:46)

子供の名前は何がいいかなぁ、というような話をしていて、私は太宰治が好きですので「桜桃」と云うような名前がよろしいのでは、と応えました。



ただ、「桜桃」と書くと、「さくらんぼ」と読みますので、もし男の子が生まれた場合、「ちぇりーちぇりー」と馬鹿にされるに違いありません。



「ねぇねぇ、桜桃君って、まだチェリーボーイらしいよ?」


「まじで?童貞が許されるのは小学生までだよね?キャハハ」


「ち…違うよ、ぼ…ぼく、童貞じゃないよ」


「あー、桜桃君が嘘ついたー、先生、桜桃君がまた嘘ついてます」


「あらあら桜桃君、また嘘ついたの?」


「そうです、桜桃君は嘘つきです」


「駄目じゃない、あなたはどう見ても童貞なんだから、ちゃんと本当のこと言わないと」


「ど…」


「どうしたの?先生!また童貞が何か口答えしてます」


「ど、童貞の何が悪い!!」


「え…!」


「童貞も守れないで何が守れるんだ!!」


「い、いや、そんなこと言われましても…」


「お前らは間違ってる…、童貞がいるからお前らは生きていけるんだ、童貞あってこその地球じゃないか。なんでそんな簡単なことを忘れてしまったんだ。童貞に感謝し、童貞を祝福する。それがこの、宇宙船地球号で生きている俺たちの定めじゃないのか?そうだろ、先生?俺たちは大切なことを忘れてしまっていた。でも、まだ遅くない。これからでもやり直しはきく。次の世代に、童貞を、残そう」




その時、誰かが、小さな拍手をした。


そこから拍手の連鎖が教室中を包み込み、やがてそれは喝采となった。


童貞を称える声が響き、各地から賛美の言葉が漏れた。




『初めて童貞について考えた。童貞の尊さに気付けた』―38歳主婦


『たった一人の童貞にカンヌは震撼した。これは童貞史に残る革命だ』―ル・モンド


『最近父親の病気がよくなった。すべては童貞のおかげだ』―サッカー日本代表


『亀田親子が凄くいい奴になった。童貞は素晴らしい!』―TBSアナウンサー




「桜桃君、ごめんね」


「いいえ、先生が悪いんじゃないんです。この社会が悪いんです」


「私、童貞君を見直しちゃった」


「じゃぁ、今夜、パークハイアットのスイート予約しておきます」


「了解、じゃぁ、今夜九時に」


「今夜九時に」




すべての童貞に、捧ぐ

黒糖黒蜜(四十四件)(23:16)

さて、五時半から始まったこの連続更新も六時間が経過。正直、そろそろネタも気力も体力も尽き果てて参りました。しかもまだ前回の半分も行ってないのに。ちなみに前回は24時間丁度かかって百件更新、ペース的には速いのであるが、昔ほどの、何かをこなすだけのパワーがもうないということなのだろうか。


気力を振り絞らなければ!(ハーゲンダッツ食べながら)

正岡子規のユーモア(四十三件)(23:05)

これはRNRCのテキストにも書いたことなんですけれども、先日上野公園を歩いていると、小さいながらも威厳を放つ野球場を発見した。名前を【正岡子規球場】という。


もしかしたら聡明な皆様はご存知かもしれませんが、なんで正岡子規が野球場の名前になっているのか、と私は疑問に思い、たまたま隣にあった立て札を読んでみた。すると、正岡子規が野球の殿堂を果たしているからである、と書かれていた。


はて、正岡子規といえば詩人であるが、彼は結核を患い若くして死んでいる筈である。教科書や、私が得てきた正岡子規の全体像からは、野球選手などという印象はどこからも発見できない。


では何故彼が殿堂入りを果たしているのか。


それは、彼が【野球】という言葉を翻訳したからだ。




ところで正岡子規の本名は【のぼる】だ。


の・ぼる。


の・ボール。


野(の)球(ボール)。


彼のユーモアには脱帽すべきである。




※しかし実際に野球という言葉を翻訳したのは中馬庚であるらしい。(子規は自分の雅号に野球を使っていただけ)子規はこれ以外にも、「打者」「走者」「四球」「直球」「飛球」「遊撃手」などを訳している。