少女の憂鬱:壱

俺=男:基本事項


なんだか知らないが俺には二つ離れた姉が居て、だいたいにおいて腐った行動をばかりしては俺を困らせ、俺を困らせては快感を得ている所謂変態野郎なのだが、奴の耳にはジッパーが装着されている、「YKK」、そのジッパーを降ろすといったい中から何が出てくるのかいつも不思議に思っており、姉曰く異空間への入り口らしいのだが、先日引っ張ったら至って普通に耳が裂けた、血も吹き零れた。


話はずれたが俺には姉が居る、それもとびっきり上等、というのは嘘で実は単なる人生の落伍者、腐食していく階段にいつまでも座り続けて最後にはぼろぼろと地上の楽園へまっさかさまの外道、ってそんな話ではなくて、俺には姉がいる、その姉が今日俺に向かって、貴様は全く以って軟弱者なので我が改造してしんぜよう、と申しまして、おいおいこれってまさかだけど仮面ライダーとかになれるの、とか無邪気に思っていたら俺は「オンナノコ」になっていた、完璧。


さっそく俺は姉の命じるままに街へ繰出した、特に行きたい場所もなかったのだが少女が本領を発揮できる街としては渋谷が適当であるらしいので取り敢えず渋谷ハチ公前、腕時計をチラチラ気にしながらベンチへ腰掛ける、すると蛆虫の如く男どもが列をなしてやって来た「ねぇ君何歳お兄さんといいところ行かない?」「行かないよ」「待ち合わせ、すっぽかされたんでしょ、お兄さんは知ってるんだから」「消えろパンチパーマ」「パッ…、消えろなんてオンナノコが言っちゃ駄目だよぉー」「失せろパンチパーマ、今時流行らないよ」「てっ、てめぇ、下手に出てれば調子に乗りやがって!」バコっ、俺は股間を蹴り上げた、パンチパーマの男は悲しそうな表情で去っていた。


はぁ、オンナノコってのも意外につまらないものだな、なんてメランコリックになっていると、先程のパンチパーマが五人に増えて俺のところへやって来た、萎びたパンチパーマ五人は、明らかにその渋谷という或る種の空間には不釣合いで皆の笑いを誘っていたのだが、本当に笑っている勇気のある輩は居なかった。


「我、さっきはよくも馬鹿にしてくれたのぉ」「ほうじゃほうじゃ、兄貴を馬鹿にした罪は償ってもらうでよ」「ほうじゃほうじゃ」「ほうじゃほうじゃ」「ほうじゃほうじゃ」パンチパーマどもは口々に言い放った「まだ何か言うことはあるかいな?」俺は黙り込んだ、パンチどもはニヤニヤ薄笑いを顔に浮かべていて気持ち悪かった、仕方がないので俺は言ってやったよ


「田舎へ帰れ」


みるみる顔を真っ赤にしていくパンチパーマたちが余りに可哀想で、少しばかり憐憫の情のを寄せたい気持ちも確かにはあったのだけれども、あー、どうせ俺はこの後姦わされてフィリピン辺りに売られるんだろうなぁ、とか思ってたらどうでもよくなった、人生というのは結構簡単に決まるものだ。


「我ぇぇぇ、覚悟せぇよぉ!!」


ナイフを片手にパンチパーマたちが一斉に俺に襲い掛かる、俺の横ではハチ公が忠実に西郷どんの帰りを待っている、その哀しげな瞳に映るパンチパーマどもの異様な形相はなんだか春の空にぴったりで、桜吹雪が似合いそうだった、そして俺は覚悟を決めて歯を食いしばる、その瞬間、


「やめなさいよ!!」





突然現れたベージュのスーツをまとった二十代前半と思われる女性が繰出した飛び蹴りがパンチパーマの頭を直撃し、その隙を付いて俺たちは道玄坂のホテル街へ逃げ込んだ、一時避難的に或るラブホテルへ入り休憩、急に疲労が俺の身体を襲い、俺はベッドになだれ込む。


ユリと名乗った彼女は、いつの間にか怪我をしていた俺の膝に絆創膏をぺたぺたと張りながら言った、「あんたも中々度胸があるわね、あんな奴ら相手にして」「うん、気持ち悪い奴らはきらいだから、例えばパンチパーマとか」「でもあんまり無茶とかしちゃ駄目だよ、オンナノコなんだから」「でもお姉さん格好よかった」「えへへ、そう?」「うん、凄いよ、感動しちゃったよ」「ありがと、でも褒めても何もでないぞ」「うん、それよりこっちがお礼言わないとね、ありがと」「いいえ、どういたしまして」彼女は、ほら出来たぞ、と俺の膝の絆創膏を叩き立ち上がり笑った、素晴らしくパーフェクトな笑顔だった。


「じゃぁそろそろ行こっか、流石に奴らも諦めたでしょ」「う…うん」「そういえばあんた名前なんていうの?」「名前は、えーと、みんみん」「みんみん…、面白い名前ね、まっ、いっか、じゃぁみんみん、またいつか会おうね、ばいばい」彼女はドアの方へ歩いていく、あっけない最後、でも俺はなんとなくこれで終わりにしたくなかった、彼女との関係を終わりにしたくなった。


「ユリ、待って!」


俺はユリをベッドへ押し倒す、ユリは突然のことで何がなんだか判らない模様で、もがもがと何か口走っている、「な、なんのつもり?」「ユリ、君のことが好きなんだ」「す、好きって…、さっきあったばかりじゃないの!?」「それでもユリのことが好きなんだ、止められないんだよ」そのままスカートの中に手を入れる、レース生地の下着の間から肌を感じる、「ちょ、や、やめ、あっ!」勿論止めない、オンナノコの止めて=止めないで、という方程式は学習済みだ、俺はユリの服を少しづつ脱がしながら身体中の至るところに接吻した、勿論初めは口から、ユリは何か呻きながら抵抗していたが最後には俺の舌を受け入れた。


瞳をとろんとさせ、パンチパーマを倒した時のような威勢はどこへやら、枕に頭を乗せながらユリは必死に喘ぎ声を我慢していた、俺といえば、あらわになった胸にくちづけをして、少しづつ身体の中心へ舌を這わしていく、お腹を通ってへそを過ぎ、ユリの下着へ辿り着く、俺は静かにそれを降ろす、「待って!」その時ユリが抵抗を試みた「どうして?こんなに好きだし、ユリも求めてる、だから最後までいこ」「ち、違うの、確かに気持ちいいし、あなたに対してなんかよく判らない感情があるのも認めるけど、私、そっち方面の趣味はないの、ごめん!」


静寂が少しの間部屋を支配した。


「大丈夫、大丈夫だよユリ」俺はユリをなだめる、ユリはキョトンとした顔で俺を見つめていた、何か説明するいい言葉はないだろうかと迷ったが、一番手っ取り早い方法で示すことにした、つまり俺はフリルの付いたスカートやらその他諸々を脱ぎ去った、ユリは眼を丸くして口をあんぐりと開けたまま放心している、「あ、あんたオトコノコだったの!?」無理もない、姉が俺に施した変身技術は完璧だった、俺は男という現実的には実体のないものを内在しながら確実に少女だった。


俺は無言を以ってその答えとしゆっくりと下着を降ろす、彼女の胎内へ続く入り口とそれをあたかも守るように存在する恥毛、俺はそこへ俺の象徴をあてがい暖かいユリの中へ入り込んでいく、ユリは声を荒げそれに応える、我々はお互いを刺激し合うことで満足感を得る、思うにそれは一つ回帰だ、俺は内在する俺という存在を解き放ち胎内へと回帰する、腐食する生命に終止符を打ち、客観的俺≒主観的俺=調和された俺、視覚化を伴う一種の回帰だ。


ジッパーをゆっくりと開けて、異空間へ続く闇の中へ俺が入ってゆき、その世界へ足を踏み入れることによって血が吹き零れる、世界は上手く出来ているよ姉さん、つまり貴様こういうことだ、調和された俺=融合されていく我々、遠くの闇を見つめては原点へと戻りたがる俺の鼓動を抑え、大変上手く出来ている世の中について俺、否我々は考察するのだ。



いつの間にか夜が明け窓から光が差し込んでくると、俺の隣で寝息を立てるユリが愛しくなったりするのだが、俺はただ天井の染みを数えては、明日こそオンナノコになってやる、と心に誓った。




→参考:http://d.hatena.ne.jp/mafuminmin/20050623/p3