彼女について 一

それは七年も前のことになるが、俺という固体を作り上げてきた工場が閉鎖された時、俺はまだ物事の論理なるものが理解できておらず、死という一つの人間が存在する上での過程を考えるに至ってそれらを保持する器自体を忌むべきものとして扱っていたそんな時代、俺は彼女に出逢った。


今日は君にディペンドオン、そう微笑みながら言い放った彼女を初めて見たとき、俺はどこか遠くの星の知的生命体と遭遇したのかと勘違いした。人生の輝かしい部分を生きる人間と、暗く湿った道を歩き続ける得体の知れない屑―それも常に下を向きながら「Life's a piece a shit」と呟き続ける人間だ―が同じ一つのベクトルを持ち得るとは思いもしなかったのだ。


ある日俺が星を観ていると彼女が俺の横に腰掛けてきた。


天体望遠鏡から何処とも判らない或る種の中心を探し当てようと必死になっていると彼女が言った、ねぇこの宇宙は無限に広がり続けているって君は信じられるかしら。俺は少し考えた答えた、それは一つの不可能性を追求しているに過ぎない、光速度で広がる空間が存在するとしたら俺たちにそれを確かめることは不可能だからさ、つまりシュレディンガーの猫以上に下らない質問であると同時に、悪魔の証明でしかないんだよ。


流れ星が堕ちる。俺はその流星に、自身を己が世紀を照らすべく義務付けられた流星であると喩えたフランスの奇才に因み、ナポレオンと名付けた。


でももしだよ、もしも宇宙が無限の広がりを持つ空間だとしたらだよ、私たちは一つの生命ではなく自分という存在が無限に存在することになるよね、つまり結果的に星を見ることで私たちは私たち自身を見るという矛盾を背負っていることにならないかしら、彼女がプロキオンを指しながら言った。アレックスガーランドだろそれ、俺は溜息を吐く。


あれバレた、舌を出しながら悪びれた様子もなく彼女が言い放ち、幾つかの星が堕ち、23度程星が傾き、いつの間にか俺たちは同じ毛布に包まり静かに星を見上げていた。草の上に寝転がりながら星を見上げていると俺は虫になった気分になる。暗いプラモデルの空き箱に入れられた虫けら。餓鬼どもが虫を気遣う余りに開けた空気穴から見える光だけが唯一の灯火、その光で俺たちは自分たちが未だ確かに存在することを確信する。たった一条のその光だけが俺たちの希望なのだ。


不安だったら私が光になるから、あなたを、あなた自身を認識できるような光になるから、だからあなたも私が自分を認識できるように私を照らして、あなたの光で。



俺の肩に寄り添う彼女が強く手を握る、俺はそれを握り返す。