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屋根の上でコサックダンスを始め、足を滑らせ、そして転落し打ち所が悪くてそのまま眼を覚まさないこのリアリティ、俺は今三途の川の対岸75メートルくらいの水面を船の上でゆらりゆらりと揺れている。

そうか俺は既にこの世の住人ではないのか、否、既に俺が存在しない世界をこの世と喩える自体が一種の矛盾、つまり今俺の見地から言えば俺は既にあの世の住人ではないということか、そして俺こそがこの世の住人、となると妙なことになる、俺たち人間は皆あの世の世界でこの世に逝く為に生き続けているということになるのか。

等と静か思案に耽っていると、船首で船を黙々と漕ぎ続けていた老婆が俺に、おまえさん、まだ自分は中学生だというのに何故こんな目に会わなければいけないんだ、って考えているだろう、と何処か遠くを見ながら話しかけてきた。しかしそれは奢りだよおまえさん、確かにおまえさんは平均的に見て少しばかり死ぬには早過ぎたかもしれない、だがね、こうここで毎日毎日永遠と船を漕いでいるとね、おまえさんのような餓鬼が珍しくもなんともないんだよ、逆におまえんさより年取った奴っこさんを見つける方が難しいくらいだよ、ベルトコンベアーに乗った豚みたいにあの世に生を受ける前にこちらの世界に来た赤ん坊どもが恒久的に流れてくるわけだよ、それから見たらおまえさんは生きたほうさ。

取り敢えず俺はこの老婆を川に蹴り落としてみた。

老婆は、うぎゃぁ助けておくれ、ここの川の住人に連れて行かれたら終わりなんだよ、死神であろうと案内人であろうと、この川の住人からは逃れられないんだよ、助けておくれ、と俺に向かって叫んだ。

俺は言った、貴様よく見てみろよ自分の姿をな、貴様は確かにベルトコンベアーに乗ってこの世への新規参入を果たす俺たち餓鬼どもを多く見てきたかもしれない、だがそれは同時貴様が生き過ぎたことをも意味しているのだよ、俺のような餓鬼が毎度毎度機械的に運び込まれてくるたび貴様はその話をして慰めていたつもりかもしれないが、それはただの詭弁でしかない、あの川原に積まれた石のようなものだ、ハイカーが意味なく積み上げそれらは一見記念碑のように見えたりもするが何も意味はない、意味なんてないんだよ。

助けてくれー、まだ間に合う、助けてくれー

すいすいと流れるようにもときた岸へと戻る過程、後ろのほうからなにやら喘ぎ声とも叫び声ともつかぬ艶やかな、それでいて搾り出すような声が聞こえたが、俺は無視して進む。それはさながら人生の終結から起点へのダイブ、しかしそれはゆっくりと確実に俺を邁進させる。

気が付くと俺は真っ白な部屋。

赤血球の体積はヘマトクリット19.7%