広がる空

高い位置にいるカラスにやぁやぁこんにちわ僕は東京のとある中学校の三年生になったばかりなんですがちょっとばかしあなたが居る場所まで連れて行ってはくれないでしょうか、とお願いしたところ了承された。


BGM:TOP OF THE WORLD  BG:夢が広がる夜明け前の空


俺がカラスの頭の上で群青色の空の心地よさを体感していると、そこへスズメの小林が現れたので、やぁやぁ最近の調子はどうだい、って挨拶すると、こっちは何もない何もないよつまりいい調子ってことさ、と笑顔で返してきたので俺は満足した。小林は俺たちの横を気持ちよさそうに飛んでいる。


高い空のさらに頂点で、俺たちは世の中を見下ろしそしてその儚さと美しさに歓喜し叫ぶ。すると俺たちの叫びに共鳴するかのように横をハチドリの鴨野が通り過ぎる。羽が奏でる壮大なハミングが俺たち三人の心を癒し、そして俺たちを祝福する風の中速度を増して音自身が追いかけてくる。トゥルトゥルトゥルトゥル。なぁ世の中はどうだい?鴨野は少しばかり考える素振りを見せて言う、うん、まだ捨てたものじゃないよ世の中はまだ捨てたものじゃない。


なすがままに風に乗っていると、リョコウバトの大群が前から迫ってきた。三億生命の塊として一つの織り成す人生の瞬き、彼らは俺たちの後ろから優雅についてくる。彼らが一人づつ口に咥えたスミレの匂いが街中を華やかさで包みあげる。このスミレ、ちょっとばかし昔を思い出すんだ、ちょっとばかり昔に見えて遥か昔かもしれないけれど、とにかくさ、昔を思い出すんだよ。


タカの井伏、ワシの樋口、デンショバトの坂口、その他数え切れない鳥たちが俺たちの後ろを軽やかに舞い、謳歌し、栄華を誇り、そして広大な空の片隅を飛ぶ。ペンギンの若山がじっと地上から俺たちを羨ましそうに眺めているのが何故か印象的な朝だった。


今もなお、俺たちは空を緩やかに飛び続けている。


飛ぶことをやめるという予定はまだ立てていない。