鏡の国の冒険

とにかくそろそろ俺の人生をカーテンフォールさせようと思い立ちエンパイアステイトビルの屋上に立ったはいいが、突然空からアリスが降ってきたのであって、俺は鏡の中に吸い込まれていった。

普通の人間なら恐らく震え上がって失禁でもする状況だが今日の俺は違う、既に俺は死の覚悟が出来ている、取り敢えずジャヴァウォックを右ストレートで吹き飛ばし、同時にハートのクイーンの顎を左アッパーで砕く、そして俺は鏡の国の王者になった。

さっそくそのことを自慢しようと考え俺の友人にメールすると何を勘違いしているのか奴は、不思議の国はイカレテイルそしてそっちの世界に行ったら終わりだお前は終わりなんだよお前は終わり、などと抜かしやがる始末。貴様、勘違いするのも程ほどにしておけよ、俺が居るのは不思議の国じゃない、鏡の国だ。鏡の国は不思議の国と違って、狂った帽子屋もヤマネも兎も居ないし、この国じゃ皆気が狂ってるんだよ、とほざくキチガイ猫も存在しない。そして俺は王だ。俺が王の国が狂っているわけがない。そんなわけがないのだ。

俺が王になってしばらく、鏡の国がある程度の秩序を保ち多少は平和だと認識できるようになったので、俺はアリスと結婚をすることにした。貴様らにはいくら説明しても一粒の砂ほどにも理解が出来ないかもしれないが、アリスの美しさは絶世ともいえる。そのアリスのまぶたにキスをしながら俺は愛しているよと静かに囁く、そしてアリスも言う、私もよダーリン。そう耳元で囁くのだ!

そしてある日、俺はアリスにナイフで腹を刺された。三回ほど。スミス&ウェッソンだ。アリスは俺のはらわたをゆっくりと抉り出しナイフにそれを巻きつけ引き抜きながら遠くを見て呟く。あなたが考えていることくらい判るのでもそれは間違いなのよ断固絶対、逆も逆なの、もしそうであるならそうかもしれないい、そしてそうだったとするならそうでしょう、でもそうでないのだからそうでないのよ、これが論理というもの。

あぁ君、もし俺の身体がエンパイステイトビルのエントランスの前あたりでトマトみたいに潰れてても、あの甘酸っぱくて俺のアリスのようにジュシーなトマトだ(あぁ西洋人はトマトを昔猛毒だと思い食べなかったらしい、馬鹿な奴らだ)、そんな俺の死体を見つけても俺が死んだなんて思わないでくれたまえ。俺という存在は既にそこにはいないのだから。なぁ、ナイトよ。そうだろう?



私の身体が何処にあろうとそれにいったい何の意味があるのだろう。

私の精神は常に変わらず活動しているというのに。