エディチュール

火曜がやって来たので「くたばれ健康法」でもまた読もうかと思い仕方なしにページを繰ろうとしていたら、突然俺におよそトドかと思う程の巨大なボストンバックが襲い掛かってきたのであって、それを回避する為には「くたばれ健康法」を犠牲にする他は選択肢がなかった。

小汚い表紙の冊子がゴトゴト揺れる床に転がる。

あの緩やかな下り坂は一見ところどころ地獄に繋がっているように見えるんだけどそれはただの思い込みというやつで実際は私のオナカん中に繋がっているのさこの違いが判るかな、と彼女が虚ろな眼で呟き俺の方をちらっと見たかと思うと小走りで運転席に向かってベクトルを移動させ、運転手に言った。

あんたもう駄目だよ死んだよほら見てみなあの水平線の向こう側をさあんたの死体がぷかぷか浮いてるのが見えるだろ?

隙間から伸びる彼女の手がブレーキバーを引きちぎり、急ブレーキが掛かった電車のパワーで俺は吹っ飛び、床に転がる。前を見ると、血だるまになった運転手がシュコー、シュコー、と空気が擦れる音を喉元から出して痙攣、隣に座っていた爺さんは吊り輪で首吊り、俺の目の前の座席で腐ったトマトのような顔をした母親の膝の上に座っていた幼児は、僕はさっき立てるようになったばっかりなんだよ、と主張するように剥き出しになった鉄パイプに尻から口まで垂直一直線に刺さっていた。

彼女がそこへ来て、するすると幼児の口から喉を通って中に入り込んでいった。

少しばかりじっとして、そろそろ飽きたから森の中へでも帰ろうかと考え、ポケットから取り出したゴールデンバッドに灯を着け、勢いよく肺にタールとニコチンを送り込む。フー。吐き出す。

マラルメが現れて言ったよ、

         イデと聖歌として
           そこから
             劇=イデ 主人公=聖歌 
          そしてそれが形成する
              全ドラマ 或いは 神秘

貴様は TOO LATE だ。

そうか、俺は既に終わりだったのだ。