エゴイスト

キスされたくない、と感じている。しかしキスしたい。

例えばこうだ、俺が飼っている猫がじゃれてくる時、大抵奴はすぐさま俺の唇を奪おうとする。これは至って奴にしてみればたたじゃれているだけの普通の行為であって特に意味はなく俺の多少潤いの或る皮膚組織をぺろぺろとでもしたいだけなのだろうが、概ね俺はそれを回避する。猫であろうと人間であろうと、キスされたくないという俺の感情の中にヒエラルキーは存在しない。
しかしながらここで問題提起をしたいのは俺が奴にキスをしたいときだ。これも確かに至って俺にとってすればただじゃれているだけの普通の行為であって、或いはもしかしたら奴への愛情表現とでも捕らえられるかもしれないがそれにしたところで大した意味はなく、奴の鼻先に対しての敬意の表れなのだ。しかし奴は拒否する。明らかに厭そうな顔で拒否する。
いったいこれはどういうことか、と奴に問うも沈黙、だがよく考えれば俺も奴も根底では同じ、奴も無駄なエゴイズムの中を彷徨っているのかもしれない。つまりそういうことだ。俺の思考回路は猫と同じ。キスしたいがされたくはない。抱きつきたいけど抱きつかれたくない。電話も手紙も会話も相手からされると非常にイラついてくる。結局自分の本意ってことで了。
ビアスの言葉を信じれば、他人のエゴを考えられない俺はエゴイストらしい。