メイク・メイド―4(三十八件)(22:14)


メイド農家は、考えているより難しい仕事だ。


メイドの種を植え、木を育て、実がなるまで。これだけでも大変な作業だ。電脳街に憧れメイド農家になりたいという田舎の若者たち、その大半はここで挫折する。たった一年に一度の収穫期までの重労働は、言ってみれば孤独な戦いのようなものだ。


さらに、立派なメイドとして市場に出すまでには多くの苦労が重なる。


決してご主人様に逆らうことのないように躾を行わなければならないし、テーブルマナーや作法、言葉遣いから笑顔の作り方、高級メイドには対応力なども求められる。近年では子供の教育にメイドを使う家庭も多い。基本的な素養も必要とされるのだ。


「違う、アールグレイと私が言ったらアイスティを指すんだ」


「申し訳ありませんでしたご主人様、すぐにお取替えいたします」


スミレは初めからよく出来たメイドだった。


言うこともよく聞くし、決して逆らうことがない。普通、メイドの出荷期間は二ヶ月ほどであると言われているが、スミレは一ヶ月ほどで出荷が出来そうだった。


「スミレ、君は私が実らせた初めてのメイドだ」と私は言った。


「はい、感謝しておりますご主人様」とスミレは頭を下げた。


「スミレは本当によく出来たメイドだ、一ヶ月もあれば出荷できる」


「ありがとうございます、これからも頑張りたいと思います」


「スミレなら、きっといいメイドになれるよ」


私がアイスのアールグレイを飲みながら言うと、スミレはにっこりと笑った。


教えていない笑顔も完璧だった。