ワンコインタクシ(二十九件)(20:46)
雪がちらちらと舞っていたクリスマスの翌日、午後7時、私が姉とタクシに乗っていると、外にワンコインタクシと書かれたタクシが走っていた。姉はそのタクシを不思議そうに見ていた。
「タクシにも色々あるんだね」と姉は言った。
「うん、タクシ業界も大変らしいからね」と私は言った。
すると、信号待ちの間、運転手が話に乗ってきた。
「そうなんですよ、タクシ業界も大変なんです、毎日々々朝から夜まで働いても月給だって大したことないし、なんというか多すぎるんですよね、タクシが。最近、ワーキングプアという言葉が流行しているそうじゃないですか、我々は、本当の意味で、その人種ですよ」
運転手は疲れた声で言った。
姉も神妙そうにしきりに頷いていた。
「ところで、運転手さんも、犬を車の中で飼ったりしないんですか?」
「は?」
私と運転手は同時に言った。
姉はそれでも不思議そうに私と運転手の顔を見比べた。
「だから、犬を飼わないんですか」
「すいません、言っている意味が」
「だって…、ワンコ、イン、タクシって…」
通りがかった新宿のイルミネーションはまだクリスマス一色で、鮮やかに彩られていた。歩いている恋人たちは、腕を組み、楽しそうに信号を待っていた。今日も、これから、たくさんのクリスマスベイビが生まれるだろう。私は、ひそかに、彼らを祝福した。
Wanco in taxi.
See you next time.